top of page
OISHII
LIFE
PLAN:2
『最奥の闇に在る』
───学園内に見覚えのない扉があった。
バーチャドールたるアリアとμが「辛い現実を忘れられる楽園」として作り上げた仮想世界メビウス。メタバーセスの中で得た様々な知識を元手に思うまま好き勝手に組み上げた結果、内包された吉志舞学園の構造は迷路もかくやという様相だった。とはいえ元ある現実を捉えた自分の様な者から見ればという話で、メビウスを現実と置換している様な…一般生徒やデジヘッドになっている様な者は違和感を抱かないと言うが。
それでも帰宅部部室への往来や学園の生徒達とコミュニケーションを取ってまわっていれば自ずとその空間への理解は深まった。今となっては目をつぶっていても…とまでは大袈裟だが、行きたい部屋を目指すのに迷いは無くなっていた。だからこそこんなところに部屋はなかったはずだと豪語出来たのだ。
生憎アリアを共連れしていない今、この部屋の存在について質問をすることは叶わない。場所だけ覚えていて、一度戻るべきかとも思ったのだが───、一抹の好奇心が胸をくすぐった。本当にこの扉の先に部屋が続いているのか、少しくらい確認してみても問題ないだろうと判断した。傍から見れば慢心と捉えられかねないかもしれないが、最近は侵食率の高いデジヘッドと相対することもあれど、それを軒並み退けて来た実績がある。ちょっとやそっとのことであれば対応出来ないこともないし、危険を感じればすぐに逃げればいいのだ。やや楽観的に扉の淵に手をかけ、開ける。思うよりもすんなりと部屋は自分を招く。何の変哲もない、この学園の何処にでもあり、薄暗い以外は見飽きたとも言える教室だった。変わったことが起きて欲しいなどと考えていたわけではないが拍子抜けはする。ならば戻ろうかと扉に振り向いた。
「帰るのかい」
声がした。緩んでいた警戒心が限界まで引き上がる。勢いよく振り返り身構えると先程まで誰も居なかった…と認識していた教室の中に人影が見えた。教室の椅子に座りこちらに背を向けながら…本を読んでいるように見えた。
「暇なら少し話に付き合ってくれないかな?」
こちらを見ていないのにこちらが見えているかのように自然と話を続ける。適当な断りを述べてここから去ればいいのに、何故か身体は動かず、足元は教室の床に縫い止められたままだった。嫌な気分だった。
「…ありがとう」
無言を肯定と受け取った人影は軽く笑いながら気にせず話始めた。
「君は『ジョハリの窓』って知ってるかな?本当の自分を知るために用いる方法論…心理学用語、なんだけど」
まるで世間話をするような気安さで、やたらと小難しい話題が言い渡された。
「…いや、知らない。」
喉を引き絞るように答えられたのはそれくらいだ。相変わらず身体を動かすことはできない。なんとなく人影の話が終わるまではこのままだろうという予感がしていた。
▶この後律チャンによるしゃらくさ心理学講座が始まり、ご静聴後にこう言うのだ「このメビウスにいる生徒たちとたくさんの関係を築いてきた君に聞いてみたいんだ。これまでの人間関係の中で自分自身をどこまで知ることができたのか、できなかったのか。そして僕が───どう見えるのか?」と。
▶そして突然因果系譜に何処のクラスにも属さない形で「式島律」という人間が増える。
▶アニメ放送中、律チャンの正体が判明する前の不穏さに堪らなくなって書いたものなわけですけど、式島律が“式島律”そのものとして現実に帰った中『橘慎吾のガワを被った式島律』はどこにも居ない、帰れない存在になったのだから、もしかしたらこうやって……どこかに現れるのかもしれないですよね。
bottom of page