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​『Ⅰ.​ 暗澹

「おい、お前」
校舎裏、駐輪場の少し奥まった横、その無粋な呼びかけは所謂「問題児」のグループの1人から明らかに自分へ向けられたものだった。……うんざりする、よりによってこんな時に。憂鬱な感情が彼、日向創のただでさえ気怠い1日の終わりに影を差した。

(無視しろ、無視。)
あえてその呼び掛けには気づかなかった振りをして早々に立ち去る作戦は、しかして功を奏さなかった。徐ろに肩を掴まれる。
「おい、聞こえてるんだろうがよ」
いよいよ眉間に皺を寄せ渋々と振り返る。呼び掛けてきた男を含め3人が、此方をニヤニヤとしながら視線を向けてくる。
「…んだよその顔、生意気だな」

理不尽にも程がある文句を付けられて辟易する。こういう奴等は何故かこっちが何もしていなくても、孤立気味の人間を嗅ぎ分けて容赦なく突っかかってくる

「……特に用事が無いなら離してくれないか。急いでるんだ」
出来るだけ穏便に返答するが一度琴線に触れてしまった奴等にはどうやらお気に召さなかったらしい。
「なんだよ、どうせ家に帰ってガリ勉するくらいしかないんだろ?暇じゃんか。ちょっと付き合えよ。」

肩を掴む力が強くなる。ますます顔をしかめたくなるが堪えて続ける。
「……本当に急いでるんだ。頼むから……」
尚も言い募るが相手は聞く耳持たずだった。これはもう無理矢理振り払って逃げるが勝ちだろうか。一か八か、焦燥が勝った創は掴まれた肩を後ろに思い切り引きその場を去ろうとした。

結論から言うと失敗した。此方が振り払って逃げるであろうと察していた連中の1人が、いつの間にか創を回り込んでおり振り向きざまに腹を殴られた。
「う゛っ………!」

思わずよろめくと同時に明確な危害を加えられたことに青褪めた。けしてそれは、危害を加えてきた連中に対しての恐怖ではなく。
「おら、逃げんなよ」

よりによって連中はナイフのようなものを持っている。いよいよ最悪だ。何とかして逃げなくては、なんでこんな時に、アレを家に忘れてきた日に限ってこう面倒な奴等に絡まれるんだ。まったく持ってツイてない。ああなんて………、

ーーーーツマラナイ………。

「…………!!」
頭の中で声が響いた。自身と同じものでありながら、何の抑揚も感情も受け取れない、声。自分が思っていたよりも早く、抱いていた危惧は現実のものになってしまった。いきなり静まり返った創を見た連中は怪訝な顔をしつつ近付いてくる。
「なんだよいきなりおとなしくなったな?怖気付いたか?」

「は、………!」
「は?」
「ッ………早く俺から離れろ!どけよ!」
精一杯振り絞って声を荒げる。冷や汗が出て気持ちが悪い。いちいち言葉を選んでいる余裕は無くなり、近付いてきた奴を突き飛ばして何とか駆け出そうとするも、他の奴に足を掛けられて思い切り地面に倒れこんでしまった。


「ってえなあ……いきなり威勢が良くなりやがったな?やるか?」
ナイフを持った男が倒れ伏した創へ近付いてくる。すぐに起き上がれない。ダメだ、来るな、やめろ。
「やめろ………ッ!!!!!」
其処で、創の意識が途切れた。

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