top of page
OISHII
LIFE
PLAN:2
『ハジメマシテ。』
「…………ッ!下がってくれ!」
どうやらこのポニーテールが印象的な男は出会って間もない俺を律儀に守ろうとしてくれているらしい、腕に付けている籠手のようなものを操作して「何か」を呼んだ。
刹那、光と轟音が響き渡り俺達を飲み込んだ。周囲を取り囲んでいた得体の知れぬ化け物たちも殆どお釈迦だ。ふと、その男の眼前に何かが現れているのに気付いた。あれは…………悪魔か?この男は悪魔を喚んだ?
その姿は俺の見知った女性を呼び起こさせた。葛葉探偵事務所でアルバイトをしながら、異変に巻き込まれた俺達にも協力してくれた彼女、ペルソナを得てから常々「只者ではない」と感じていたが…………たまきさんはこの男と同じように須藤と戦っていなかっただろうか?何か機械を操作して、悪魔を喚んで「それは…………」
張り詰めたような顔をしていた男はハッと我に返るようにこちらを見る。 一瞬の逡巡を見せるがわりかし素直に「仲魔を喚んだ」と答えてくれた。「仲魔」それもたまきさんが言っていた。
化け物どもはあらかた消え失せたとはいえ、ちらほらと残っている奴等がこちらに凄まじい殺気を寄せてきた。男は向き直りそれらに対抗しようと続けて刀を抜こうとしている。
「…………張り切ってくれているところ悪いが、」
「え?」
突然俺がずいと並び立って来たことに驚いたらしくきょとんとした顔を向けられたが話は後だ。俺もお前も聞きたいことが山ほどある、それだけの時間を作らないといけないだろう。とっととケリをつけるに限る。
「生憎俺はお前にだけ華を持たせてやるようなタチじゃないんだ」
踏み込む、意識を集中させる。こんな右も左もわからない場所でも問題なくペルソナは出せるらしい。使えるものは有効に使わせてもらわねば。
「来い!アポロ!!」
『アクマコウショウ。』
フリンのいる世界でも悪魔とは交渉するものらしい、なかなかの腕前らしく出てきた悪魔のご機嫌を上手く取ってはちゃっかりアイテムをもらっている。なるほど、こっちの世界にいたらタロットカードをもらい放題だな…………などと邪な考えを巡らせながら彼の交渉を後ろから眺めていると、今回の交渉相手のピクシーが突然「あらっ!?」と素っ頓狂な声をあげた。
「もしかして貴方って、オトコノコなの?」
「は……?」
「まあ~……だって髪が長くって、ポニーテールで……かわいい顔してるから、ちょっと背の高いオンナノコだと思ってたのに?」
「ちょっ………、」
「ぶふっ」
思わぬやりとりにさすがに俺も少し噴き出してしまった。フリンからの視線が刺さるが仕方ないじゃないか、俺は悪くないだろう。自分は美醜にそこまで関心がない方だと思っているが、そう言われてみるとフリンは確かに身長も高く間違いなく男であるはずなのに綺麗な顔立ちをしているからか背の高い女と言われても納得出来てしまう説得力があった。そういえば自分が美醜に頓着しないのは自分を含め美男美女に囲まれていて感覚が麻痺しているのではないか、とうららさんに言われたことがあるが、今思えばなんであんな棘のある物言いをされたんだろうか。
フリンはピクシーとの交渉を早々に終えて戻ってきた。今だ胡乱げな目でこちらを見るフリンに丁重に尋ねる。
「よく言われるのか」
「まあ………さすがに人前で言われると恥ずかしいな、そんなに言うならと一度どんな反応をするかと思って『女の子だもん』と切り返したこともあるけど」
「……それはノリノリだな?」
案外自分の運命を受け入れているらしい。
「俺の知り合いにもお前みたいな奴がいたぞ。」
這い寄る混沌に翻弄され、苦しんできた。唯一無二の親友のことをを思い出す。
「女優で名を馳せた母親に似たからか女顔でな、お前よりも小柄だから余計に女だと勘違いされて大変だった。しかも同じ知り合いの女に悪ノリされて化粧までさせられてたんだ。いつのまにかその二人で悪魔交渉するときの十八番になっていたが。」
「それこそノリノリって言うんじゃないか?」
フリンは苦笑しつつ突っ込んだ。そうだな、俺もそう思う。
「精々お前も悪ノリする奴やら、悪魔に捕まって遊ばれないようにするんだな」
「う……………………、」
「なんだ、もう手遅れだったか」
「いやそういう訳じゃ、ああ…………そうだな、気を付けよう」
女装させられることに対しての反応にしてはあまりにも苦虫を噛み潰したような顔をしたような気がしたが………本人がそれ以上言わなかったので俺も立ち入らず歩き出した。
bottom of page