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​『Room No.702』

「──物好きなものだな、アレも。」
とりとめて物も少ない殺風景な部屋の、備え付けの椅子に陣取り、電灯照明を見詰めながら男は一人ごちる。一部屋一部屋、下層から上層へ、他のサーヴァントを従えながら進んでくる魔術師の少女の気配を感じ取りながら。
アルジュナだった。彼は確かにアルジュナだったが、見る人が見れば何処かで違和感に気づいたかもしれない。稀少な差異──それでも一度気付いてしまえばもう拭えなくなってしまうようなもの。

「さて、気ままな一人暮らしも終わりが近いというわけだが…どうする、追い返してみるか?」
口の端を薄く歪めながらどこはともなく語りかける。もちろん此処には誰もいない。返事など期待できるような状況ではないはずなのに、アルジュナはそれを待つように口を噤んだ。

「…………そうか、ならばそうしよう」

たっぷりと時間をかけて、虚空に向けて確かに"何か"へ返答したアルジュナは一つ呼吸を置いて静かに立ち上がった、手にどこからともなく現れた弓を収めながら。
「ああ、大丈夫だよ…俺は何よりも、誰よりも君の…君だけの味方だ。いつもそうだっただろう?上手くやるとしよう」

少女が扉を開くまで、あと少し。


 

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